暗闇の鎌【読みきり短編集】
 朝、玄関前の鉄の門をゆっくりと開く。

この門を閉じれば、ゆっくりとまた、眠れるのにそうはいかない。


どうしてこの家を買ってしまったのだろう? 6千万のローンまでして。この家の成約は、労働との契約だ。


そのせいで離婚さえも頭が回らない。いや、離婚したとしてもローンを返し、一人で過ごしていく未来が想像できない。見えてこない。

結局俺は、奴隷がお似合いなのだろうか。


「あ、桜井さんの旦那さん、おはようございます。朝のゴミ出しですか? えらいんですね」

「いえ。夫としてあたりまえのことですよ」


ゴミ捨て場に居た、ご近所の奥さんに挨拶をされる。これも日課になりそうだ。


本当はしたくないのに、ゴミ出しを断れない自分が心底嫌になる。それに仕事前に近所の人と話すのは億劫でしかない。


駄目だ。いつしか俺は日々、小さなことが積み重なり、いつの間にか劣等感の塊になってしまった。
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