暗闇の鎌【読みきり短編集】
 借金か……借金なら家のローンがあるし、新たに借り入れをしたら妻になんて言われるか。次の電車を待つだけじゃ駄目なのかよ!


あーあ、あの頃に戻りたい。電車が好きだったあの頃に。


――トルルルル……トルルル……


「はい、もしもし」

「貴方、電話の途中で切らないでくれる? 真紀が心配じゃないの? なんで貴方はいつもそうなの? ちっとも頼りないし、それに……」


戻りたい。ストレスを感じないあの頃に。大好きだった電車、独身だったあの頃に。


――パアアーン。

――列車が着ますので、黄色い線の内側へお下がり下さい。


電車が来る合図とアナウンスが鳴っている。俺が好きだった音色だ。


「ねぇ! ちょっと貴方、人の話を聞いているの!」
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