とある愛世Ⅱ
車の陰にうずくまり、乱れる息を必死に正す。昔から、そうだ。泣くと苦しくなって、上手く息ができなくなる。込み上げる涙を拭いながら締め付ける胸を押さえれば、涼しげな夜の風が濡れた頬をなでた。

刹那、


「ごめん、ごめんね。」


焦りを帯びた声が聞こえたと同時に、体に回される腕。
後ろから伝わるぬくもりに、しだいに荒れた呼吸も落ち着いてくる。わたしが不安定になる原因である彼から安心感を得ている現状が、とても情けなかったけれど。


「……落ち着いた?風邪引くから、部屋戻ろう?」


謝罪の言葉も、気遣う言葉も、今聞きたい訳じゃないの。
そんな言葉、要らない。望んでない。


「離して…っ!」


抱き締める彼の手を振りほどくように立ち上がり、彼の顔を見下ろす。夜の闇の中で僅かな明かりに照らされた彼の顔が、とても困惑に染まっているように見えた。
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