無力な僕らの世界と終わり
ケンカ
午後もめいっぱい働いた。
刈った稲は、木村さんの指示でまとめながら組まれた木材にひっかけて乾かしていく。
項垂れる稲のカタチは、どこか絵で見たことのあるような、不思議な光景。
ふう、と息を吐くと、すごく清々しい。
秋の風は冷たいけれど、動いてるとどんどん汗ばんでくる。
瑠樹亜もサボりながらだけど、最後まで一緒に頑張ってくれた。
いつも文庫本を開いているだけの手のひらは、黒い土で汚れていて。
細い腕には、汗がしたたり落ちている。
見たことのない、男らしい瑠樹亜の姿に。
あたしの心臓は飛び出るほどうるさい。
「おわったあー!」
疲れて重くなった体を引きずって、あたし達は木村さんのお宅に着くなり畳に寝転がる。
畳は冷たくて気持ちよくて、みんな一斉に溜め息を吐いた。
「夕食の時間まで、みんな、のんびりしててなあ」
お婆ちゃんもお爺ちゃんも、みんな汗だく。
何気なく口にしているお米だけど、こんなに大変な作業を踏んで、あたし達のお腹に入るんだ。
そう思ったら、何だかじんとしてしまう。
それにしても、お腹ペコペコ。
こんなに夕飯が待ち遠しく感じるなんて、そうそうない。
夕食の時間まで、みんなでダラダラ過ごした。
瑠樹亜は壁にもたれて文庫本を読み、弓子さんはぼんやり外を眺めている。
向井と山本は座布団をまくらに寝転がって、あたしはのんはその枕元で下らないおしゃべりをしていた。
「お前ら、うるせーな。
何をそんなに話すことあんの?」
そう文句を言うのは山本。
「女の子は色々あるのー」
のんが反論すると、
「俺は大人しい女が好きだな~」
と山本。
もしかして、美山さんのことを言ってるのかな。
「あはは、F組の美山とかな」
と、鋭い突っ込みを入れるのは向井。
「うるせ!」
と、山本はまた、耳まで真っ赤だ。