無力な僕らの世界と終わり




「でっ、でも……!」



……そこへ。

和やかなムードの中、ポン、と割り込んできたのは。
ぼんやりと窓の外を眺めていた弓子さん。


あたし達は驚いて、弓子さんの顔を見る。

弓子さんもまた、興奮しているのか、顔が真っ赤だった。



「え、F組の、美山さんは……、斉藤先生と、で、できてるから……」


しどもろもどろになりながら、弓子さんがそんなことを言う。



「はあ!?」


それに勢いよく反応したのは、山本。

体を起こして、ものすごく恐い顔で弓子さんを見ている。



「う、う、噂になってるよっ……あたしも、み、見たこと、あるもん、美山さんが、斉藤先生の車に乗ってるとこ……」


山本の反応が、予想以上に恐かったからなのか。
弓子さんの声が震えてる。


「おい! でたらめ言うなよ」


いつも穏やかな山本が、喧嘩腰だ。


「うっ、嘘じゃないもん。
色仕掛けで、斉藤先生からひいきされてるって……本当だよ!」


……色仕掛け。
ひいき。

よくある美山さんの噂だ。



「あたし、あたし……
見たんだから!
美山さんが、斉藤先生と……き、き、キスしてるとこ!」



「……は?」



弓子さんのその言葉には、一瞬でみんなが息を飲んだ。


……ううん。
みんな、じゃないかもしれない。


瑠樹亜の文庫本をめくる音だけが。

パラ、と、変わらずに響いたから。



「……何、言ってんだよ」


山本の声が、小さくなる。




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