無力な僕らの世界と終わり




…………


……


……カサカサ


カサカサ。



微かな音で、目が覚めた。

この音には、聞き覚えがある。


……チョコレート。

チョコレートだ。


縁側の方に目をやる。

襖の奥。
そこから、聞こえているような気がする。



……瑠樹亜だ、と思った。


のんと弓子さんは、寝息を立てている。

あたしは静かに布団から抜け出して、そっと襖を開け縁側に出た。



縁側の一番端に、座っている華奢な男の子。

月明かりに照らされて、妖艶な雰囲気。


瑠樹亜だ。

あたしの予想は。
やっぱり当たった。


月を見上げて、チョコレートを頬張っている。



パリン、パリ、パリ。


チョコレートをかじる音が、やけに響いていた。



「食う?」


瑠樹亜はこちらに視線をやると。
あたしにチョコレートを半分、差し出した。


……その仕草に。

さっきまでの不安や悲しみ。
その何もかもが。

一瞬でチャラになる。



「ありがと、食べる」


そう言って、瑠樹亜の隣に座った。
床がひんやりして、気持ちいい。

背後では、向井と山本が襖越しにイビキを立てていた。


瑠樹亜にもらったチョコレートをひとかけ口に入れると。
甘さがふんわりと広がる。



「瑠樹亜は、寝ないの?」


「あいつらのイビキ、マジうるせえし」


「あはは。さすがに起こしてまでは文句言えないしね」


「それに、僕は、こんな時間じゃ全然眠くない」


「いつも何時に寝るの?」


「4時くらい」


「えっ?」



知られざる、瑠樹亜の生活。

そんな時間に寝るんだ。
寝不足にならないのかな。




< 175 / 215 >

この作品をシェア

pagetop