無力な僕らの世界と終わり




「……瑠樹亜くん」


昨日と同じ所に座って。
薄明かりの中で文庫本を広げている瑠樹亜に声をかける。


けど。

返事はない。



「瑠樹亜くん」


もう一回、呼んでみる。

……やっぱり、返事はない。


邪魔をするなって、ことなんだと思う。

横顔を見れば。
何となく分かる。

だけど。



「ねえ、瑠樹亜。
今日、美山さんが変だった」


一方的に話を始める。

瑠樹亜は。
聞くなら聞くし。
聞かないなら聞かないと思うけど。


あたしは。
言わなきゃ駄目だと思った。



「帽子をくれた。
お父さんの話をしてくれた。

聞いてくれてありがとうって。

……笑ってくれた」



やっぱり、瑠樹亜からの返事はない。

けれど、文庫本から。
視線は離れている。



「今にも、消えちゃいそうだった。
あのまま行かせたら、駄目だって気がした。

だけど……美山さんは……
一人で……
行っちゃった」


返事はない。
けど。

瑠樹亜があたしを見ている。




「帽子、大丈夫かな。
明日、暑くなるのに。

……美山さん。
大丈夫かな」



答えが欲しい訳じゃない。

美山さんにしか、それは分からない。


けど。
だけど。



「……あたし、何だか不安で、眠れない。

瑠樹亜……

美山さん、大丈夫かなあ……」



最後の方は。

涙で声が出なかった。









< 191 / 215 >

この作品をシェア

pagetop