無力な僕らの世界と終わり




静まり返った木村家の中を。
無遠慮に瑠樹亜は走る。


玄関の鍵を開けて。
ガラガラっと、大きな音を立ててドアを開けた。


あたしも瑠樹亜について。
スニーカーも半端に履いたまま外へ出ると。


想像していたより。

ずっとずっと暗く重い夜が、広がっている。



「待ってよ!」


あたしの声は、瑠樹亜には届かない。

握りしめていた美山さんの帽子を。
パジャマのポケットに無理矢理突っ込んだ。

スマホは。
靴を履くときに玄関に置いてきた。



どこへ行くのか。
何をしに行くのか。

何にもわからない。


ただ。
少し前を走る瑠樹亜の白い背中を見失わないように。

あたしは必死に走った。



スニーカーか、何度も脱げそうになる。

カポンカポン、と重たくて、イライラした。


瑠樹亜の背中を闇の中に見失いそうになって。
あたしは靴を脱ぐ。

裸足で瑠樹亜を追った。


時々小石を踏んで痛かったけど。

見失ったら。
絶対に駄目だと思った。


気が付けばあたし達は。
土手沿いを走っていた。


少し外灯が増えて、瑠樹亜の姿も見付けやすい。

瑠樹亜は、何メートルも先を走っていた。


ハアッ……、ハアッ


あたしは息があがって。

もう瑠樹亜の姿も名前を呼ぶこともできない。





< 193 / 215 >

この作品をシェア

pagetop