無力な僕らの世界と終わり

始まり







「ひよ、どこ行くの? また屋上?」



一時間目が終わって、二時間目が始まるちよっと前。

コンビニの袋を持って立ち上がったあたしを、のんが呼び止めた。



「うん。 ちょっと、元気チャージしてくる」


そう言って、チョコレートの入った袋を持ち上げて見せる。


「寒いから、フリース持っていきなよ」


のんがいつも愛用している、花柄フリース生地の膝掛け。
のんはそれを、ふわりと、あたしに投げてよこした。


「ありがと」


それを受け取り、教室を出ようとするあたしに。


「あ、ひよ!」


のんはもう一度、呼び掛ける。


「ん?」


「……元気、出してよ?

ひよは、本当にすごいこと、したんだから」


そう言って、のんは笑顔になる。

その笑顔は、同情とか、そういうんじゃなくて。
いつもあたしを元気付けてくれてた、のんの本物のやつで。



「……のん」


あたしの胸は、じんと熱くなった。



「自信、持ってね。
ひよにしか、できなかったことだよ」


「……ありがと」


だからあたしもそれに。
精一杯の笑顔で応える。



………



それから一人で、屋上へ向かった。



こうして授業をサボってチョコレートを食べるために屋上へ行くのも。
あたしにとってはもう、儀式みたいなものだった。

色々と事情を察してくれているらしい山下先生や、他の先生も。
たまにだからと、黙認してくれてるみたい。


それも、のんがうまく、フォローしてくれてるのかもしれないけど。






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