無力な僕らの世界と終わり
校舎を出ると、太陽が西に傾き出していた。
それでも、暑い。
梅雨が明けてからというもの、毎日が熱地獄。
「はあ」
ため息混じりに自転車に股がる。
期待と緊張でペダルをこぐ足が震えた。
瑠樹亜の家はあたしが住んでいる町よりもずっと近い町にあって。
大きな公共施設と公園の側だったから、すぐに見当がついた。
本当はのんにも一緒に来てもらいたかったけど、向井がバスケの練習をしてるとかで体育館に行ってしまったし。
当たり前だけど瑠樹亜のケイタイ番号なんて誰も知らない。
(ケイタイを持っているのかすら不明)
いきなり、直接、ピンポン攻撃。
緊張しないわけがない。
……何て言おう。
瑠樹亜くんいますか?
同じクラスの二谷です。
今日は修学旅行のしおりを。
云々かんぬん。
頭の中でシミュレーションしながら、笑顔の練習なんかしちゃってみる。
あの綺麗なお母さんがいるかも。
あら、かわいいお嬢さん。
お紅茶でも、いかがかしら? なんて。
リビングに招かれちゃって。
手作りのクッキーかシフォンケーキなんか出てきちゃって。
おいしいです。
素敵なお母様ですね。
あら、お上手ね。
なんて、気に入られちゃったりして。
「はあ……」
まったく。
瑠樹亜に関していえば、あたしの妄想はいつだって完璧だ。