無力な僕らの世界と終わり
「すみませーーん!」
声を張り上げてみる。
張り上げてみるけれど、オペラには敵わないだろうな。
「すみませーーん!!」
もう一度。
やっぱり、返答なし。
うーーん。
帰るべきか。
粘るべきか。
あたしは学校で一緒に残ってくれている、のんのことを考える。
……うん。
きるだけのことはして、帰るべきだろうか、やっぱり。
オペラは玄関から向かって左側から漏れてくる。
音の響きからして、二階じゃなくて一階からかな。
この芝生をぐるっと回れば、リビングなのかも。
リビングでお茶しながらオペラ?
絵に描いたような金持ちで笑える。
あたしは何故か、少し『抜き足差し足忍び足』になりながら芝生を歩く。
ああ、泥棒ってこんな感じなのだろうかと、変なことを考えながら。
「すみませーん……」
声まで小さくなって。
何だか本当に泥棒みたいだ。
オペラがだんだん近付いてくる。
大きな窓が見えた。
あそこがリビングに違いない。
窓がほんの少し開いている。
白いレースのカーテンが、微かに揺れているのがわかる。
趣味のいい、高級そうなカーテン。
うちのカビ臭いカーテンとはまったく違うわ。
あたしはそのカーテンの隙間を。
そっと、覗いてみた。