だって好きなんだもん
「響……ちゃ、苦しぃっ」
閉じ込められた腕の中が苦しくて訴えるけれど、そんな訴えなんかに左右される彼じゃない。
「お前、今日俺の授業中見てただろ」
なんてニヤニヤしながら言う。
――あ……バレてた。
私が響ちゃんのことを、可愛いなんて思ってみてたと知ったら超怒るんだろうな……
で、ココは素直に認めておこう。
「み、見てた、よ?」
「ぷっ、馬鹿正直な奴。鎌かけただけなのに」
「えぇ!?」
「はぁ。ほんとお前は可愛いわ」
「な、なっ!?」
私は響ちゃんの一言で一気に赤面してしまう。
そんな私には一切構わずに、彼はいつも通りの調子で
「見物料……」
なんて言って、響ちゃんの甘くて深い囁きを私の耳に落とすと、頬に軽くキスをしてから、私の唇へとそっと響ちゃんの優しい唇を触れあわせた。
ちゅっ、ちゅ……と触れるだけの優しいキスはだんだん激しくなって
「口開けろ」
大胆な指示をされて戸惑うのに、拒否も出来なくてゆっくりと少しだけ開ける。
するとその隙をついて響ちゃんの舌がつるりと潜り込み、私は呆気なく甘く泣かされた。
「ふぅっ……んっ、は……ぁ」
もう倒れちゃうってところでようやく離してくれた響ちゃんは
「やべ。止まれなくなる」
なんて言って私を愛しそうに見つめて撫でてくれた。
それだけで、きゅうん、って私の心臓鳴いちゃうよ?
響ちゃんは私の心臓を弄んで殺す気じゃないかっていつも思う。それくらい私をブンブン振り回すの。
でも仕方ないでしょ? 好きなんだもん。
そんな甘い空間に浸っていた私に、響ちゃんは残念なお知らせを告げてくれた。
「菜摘。今週だけどな」
「ん?」
「ちょい、用事が出来たから遅くなる」
「え? 毎日?」
「 ん~、多分な。今週だけと思うけど」
「そんなぁ……」
「だから、今週うち呼べない」
「ふぇ……」
「泣くなよ」
そう言って目元にたまる涙をそっと親指でぬぐってくれる響ちゃん。
「寂しいよぉ」
「ん。俺も」
ぎゅうっとさらに強く抱きしめてくれる。
響ちゃんの付ける香水のラストノートがふんわり漂って、私の鼻腔をくすぐった。
しばらくして、ぱっと離されると
「ちゃんと飯とか食えよ」
そう言って私に、当初運ぶように言っていた、世界地図を一緒に運んだ。
明日うちのクラスの1限目が社会だからだ。
でも、こんなことでも一緒にいられて嬉しいと感じる私は、重症かもしれない。