だって好きなんだもん
 それからの響ちゃんは本当に忙しいみたいで、毎日帰りが遅いようだった。


 ――寂しいな……


 そう思っていた私の前に、久しぶりに来たのが体育の八木先生。


 活発で溌剌とした元気な先生だ。


 私は嫌いじゃないんだけど、なぜか私が八木先生と一緒に話したりしていると響ちゃんが嫌な顔をする。


 でも、同じ学校の先生。邪険にはできないので、私はいつも通り普通の対応をすることにした。



 「お疲れ様です」

 「春日井先生。お疲れ様っ」



 ほんとに元気だ。そんな八木先生の態度に私も思わず元気になっちゃう。


 そんなことを感じている私を余所に、先生はいきなり前置きもなく話をしだした。


 「ところで先生」

 「何でしょう?」

 「先生と貝塚先生って仲イイですよね?」

 「へ……え? そ、そうですか?」


 
 響ちゃんとの付き合いを隠している私は、ドキドキしながらそれとなく八木先生を指摘を否定する。


 けれど、私の否定なんてどこ吹く風。

 
 八木先生は、私の返事なんてお構いなくぐいぐい話を進めていった。


 「そうですよ~。仲間内でも、春日井先生は貝塚先生とだけなんか近い感じがするからずるいよなっていつも話してるんです」

 「そ、そんなことはっ」

 「ですからね! あの、明日は私と一緒に飲みに行きましょうよ!」

 「へ? え?」

 「予定ありますか?」

 「な、ないですけど、でもっ!」

 「じゃあ、決定です。明日、楽しみにしてますからね! じゃあ」



 言うだけ言って、颯爽と去ってしまった八木先生。


 どうしよう……


 だけど、断るすべもないし。


 やっぱり、ほかの先生とも親睦深めなきゃいけないのかな?


 そう思い至った私は、明日悲しい事実を目の当たりにするとは露とも知らず、翌日の木曜日、八木先生と出かけることになったのだ。


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 約束の木曜日。


 HRが終わって職員室に行くと響ちゃんの姿が見えた。


 なんだかすれ違いが学校でも多くて、私は本気で落ち込み始めていたから、少しだけでも目に出来て幸せって思った。


 声も聞きたいな……


 そう思ったのに


 「失礼します」


 私の想いなんて届くことなく、5時過ぎにさっさと響ちゃんは学校を出てしまった。


 放課後忙しいって言ってたのに、仕事じゃないなら一体何が忙しいんだろう。


 しばらくしてから6組の田中美希先生も


 「失礼しますー」


 と言って帰ってしまった。


 2年の学年主任と副主任が早々に帰るなんて……と少し思ったけれど、人それぞれ予定もあることだし、仕方ない。


 このときはそう思った。
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