だって好きなんだもん
 そんな二人を見送った直後、嬉々とした表情で私の前に現れたのは約束していた八木先生だった。


 「春日井先生! お疲れ様です」

 「は、はい。お疲れ様です」


 気が付けば急に目の前に立っていて驚いた。


 それに、なんだか今日の八木先生はいつもより気合が入っていて黒のスーツが目立つ。


 響ちゃんよりは少し年下で、確か30歳になったところだっけ……なんてことをふと思い出していた。



 「私が出てから、しばらくして来て下さい。三角公園で合流しましょう」

 「わかり、ました」

 「じゃっ」


 そう言って八木先生はスタスタと扉まで行ってしまった。


 「お先です~」


 明るい八木先生の声が聞こえてきて、なんとなく落ち着かない気持ちが込み上げてきた。


 ――流石に一緒に出るのはまずいのかな?


 なんだか、密会みたいな気がしてくる。


 しかし今さら拒否も出来ない。私は八木先生の指示に従って、15分くらい経ってから職員室を出て学校を後にした。




 三角公園は電車でひと駅乗って、3分ほど歩いたところにある公園で、飲み屋が近くに並んでいるので何かと目印として利用されている。


 生徒の手前、だらだら全員で飲み屋まで行くわけにもいかないからだ。


 そんなわけで経路もばっちりの私は、いそいそと八木先生の後を追うべく三角公園を目指した。


 着くとブランコに座って、携帯電話を見つめている八木先生。待たせすぎたかな?


 そう思った私は足早に駆け寄って


 「八木先生!」


 と叫んだ。


 すると私の声を聞いた八木先生の顔がパッと明るくなった。


 「春日井先生ー!」


 大きな声が響いてちょっと恥ずかしいけれど、そうは言えずに黙って駆け寄る。


 「遅くなってすみません」


 「いえいえ、こっちこそ勝手に指示してすみませんでした。行きましょう!」

 「はい」


 押され気味ではあるものの大人しく頷くと、八木先生と横並びになって私は居酒屋通りを歩き始めたのだった。
< 19 / 33 >

この作品をシェア

pagetop