だって好きなんだもん
 よくよく考えると響ちゃん以外の人が隣を歩いていることって、ココ最近ない。そのことになんだかドキドキした。


 勿論相手が八木先生だからではないけれど。


 ――今更だけど、響ちゃんに黙ったまま一緒に出かけてよかったのかな?


 でも、同僚みたいなものだしね。断るのも変だよね?


 そう思い直して八木先生について歩いた。


 歩いてすぐに少しおしゃれな焼き鳥屋があって、カウンターにちょっと高めの椅子が並べられてあった。


 「らっしゃい!」


 店構えを裏切る威勢のいい、主人だろう男の声が聞こえると慣れた風に八木先生が声をかける。


 「2名。いいっすか?」

 「どうぞ。お好きなところへ」


 従業員の女性が現れてそう言うと八木先生は奥の方へと進み、私はカウンター奥の壁側へ勧められてその隣に八木先生が座った。

 

 「生中」

 
 メニューも見ずに注文する八木先生にならって、私も梅酒のソーダ割りを注文する。


 いつもなら響ちゃんが横で、そんなに飲めないだろなんだろと言うけれど、今日は何も言われないことに違和感を覚えながら落ち着きなく出されたおしぼりで手を拭いた。

 
 何となく続いた無言に、どうしようかと思っていたら先ほどの女性がドリンクを持ってやってきた。

 
 それにホッとしながらグラスを持つと、どちらからともなく「「乾杯」」と言って二人でグラスを合わせる。


 そこでようやく八木先生が嬉しそうな顔をしたから、私までつられて笑顔になった。


 「今日はほんと、来て下さって嬉しかったです」

 「そ、そんな。とんでもない」


 顔の前で手を振る。私なんかと飲みに来て楽しいのか疑問なくらいで、嬉しいとまで言ってもらうほどのことではない気がする。


 「いやいや。春日井先生は結構人気なんですよ?」

 「へ……?」

 「あれ、自覚ないんですか?」

 「そ、そんなこと、ないですよぉ!」


 言われなれない言葉に、思わず顔を真っ赤にする。それなのに八木先生は、私のその様子に気付かずに

 「いやいや、本当に。今日だって私はみんなに自慢してしまいましたから」

 「えぇー?」

 「ですからね、先生」

 「な、なんで、しょうか?」

 「今日のこの機会に私、お近づきになりたいんですよ」

 「は、はぁ……」


 しょっぱなから飛ばし気味の八木先生の勢いと話に面食らって、私は何ともいえずのらりくらりと対応をした。

 
 どうしたらいいんだろう、この空気――と思い悩み始めたその時


 「お待ち!」


 主人がいいタイミングで目の前に焼き鳥の盛り合わせを差し出してくれて、私はホッと息を吐いた。


 「頂きましょうか」


 八木先生が話を打ち切って勧めてくれたので、私は遠慮することなく手を合わせ、梅肉のシソ巻きに手を出した。


 八木先生を見れば鳥皮に手を伸ばしてまたビールを一口飲んでいるので、私も安心して一口頬張った。
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