だって好きなんだもん
 2串目を食べ終え3串目に手を出したとき、八木先生はさっきの話を蒸し返してきた。


 「春日井先生。」

 「はひ」


 大好きなヒップの先を口に放り込んだころで、声をかけられ思わず変な返答をしてしまう。


 だけど私の変な返答には気にも留めず、八木先生は思いもよらない質問をしてきた。


 「名前で呼んでもいいですか?」

 「ほへっ」

 「菜摘……って」

 「っ!? ごほっ、ごほっ」


 何を言い出したのかと焦った私は、驚いて思わず咽る。


 そんな私を見かねてか、八木先生は慌てて私の背中を擦ってくれた。


 響ちゃんの指とは違った、太くてごつごつした感じの手だ。


 その手が嫌い……とかじゃないんだけど、響ちゃんに慣れ切った私は、なんだかその手が嫌に思えて仕方ない。


 「大丈夫です」


 強めの口調でそう言って体を起こし、暗に触れないで欲しいという気持ちを訴えた。すると伝わったのか、先生もサッと手を離してくれたので心の中でため息をついた。


 ――こんなこと思うなんて失礼かもだけど……嫌なものは嫌なので仕方ない。


 しかし、落ち着いた私を見て再び八木先生は、懲りずに話を続けようとする。


 「それで……いいですか?」

 
 なんとも粘りあるお願いだ。

 
 しかし八木先生に全く興味のない私にとって、それはどうでもいいことだった。


 それにダメと言えるほどのことは何もなくて、どうしようもなくなってしまう。


 「えと」

 「私のことは龍雄と呼んでください」

 「いや。そういうわけには」

 「ね、二人の時くらいそうしましょう!」

 「は……ぁ」

 「よぉしっ!」


 なぜか強く拒否できずに頷いた感じになってしまい、私の返事ですっかり八木先生は勢いついてしまった。


 気付けば「菜摘さん」から「菜摘ちゃん」へと呼び方が変化し。すっかり彼の中でそう呼ぶのが定着してしまった。


 1時間半ほどたって、店を出ようという話になった。


 6時過ぎにこの店にきたから今は7時半過ぎ。


 私も遅くなるのは嫌だし、明日も学校があるから早めに切り上げたかったので、丁度いい時間だ。


 会計で財布を出そうとすると、


 「女に出させないよ」


 すっかり敬語を崩して、ほろ酔いの八木先生がいた。


 店の外に出て慌てて財布を引っ張り出し、


 「全部出してもらうわけにはいきませんから!」


 と言って、千円札を数枚出したけれど


 「しまって、しまって。ほら行くから、いらない」


 なんて言いながら私の肩を抱き寄せた。


 ――流石にコレはまずい!


 「八木先生っ。離してください!」


 そう叫んでやんわり力を込めるのに全く離してくれず、押し問答している間に怪しい繁華街に連れ込まれていた。
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