だって好きなんだもん
「「あのっ」」
気まずさに耐えられず早く謝罪しようと声を挙げたら、私と八木先生の声が被ってしまった。
「先、どうぞ」
どうしようか悩んで、八木先生に先を譲ると八木先生は見て分かるほどゴクリと唾を飲み込んでから、意を決した様子で頭を下げてきた。
「いえ、昨日はすみませんでした……と言いたくて」
八木先生は昨日の態度が嘘のように萎れていて、ものすごく落ち込んでいる様子で、私はかえって戸惑ってしまう。
ブンブン手を振りながら、自分も悪かったのだとより落ち込んでしまう。
「いえ、私の方が悪いんです。ぼんやりしていて。それに突き飛ばして置いて行ってしまってすみませんでした。」
「止めてください。それじゃ、私が置いてかれた可哀そうな奴みたいでしょ?」
「あ、いえそんなつもりじゃ……すみません」
「いいんです。調子に乗り過ぎた制裁です。でも、いいですか?」
「え?」
「私、先生のこと、本当に好きですから」
「へっ!?」
「貝塚先生に負けませんから。じゃあ!」
言うだけ言うと、白い歯を見せて笑ういつものすがすがしい八木先生に戻って私の前を立ち去った。
私たちの会話の途中で着いたらしい響ちゃんに目が合いそうになって、おもいきり逸らす。
不自然……だったかな。
そう思ったけど、まともに見ることは出来なかった。
結局、響ちゃんに何の言い訳も詮索も出来ないまま、私は今日の授業の準備を進めた。
朝のSHR(ショートホームルーム)に出てから、今日は響ちゃんの受け持つ1組で授業がある。
逆に私のクラスは、社会なので響ちゃんと入れ替わりだった。
「すれ違ったりしないようにっ」
いつもなら思うことと反対の想いを強く願って、無茶な祈りをしながら2組の教室へ向かった。
教室には、生徒がほとんど揃っていて、私が入室したと同時くらいに予鈴が鳴る。
滑り込みで数人の生徒が入ってきて、日直が「起立、礼、着席」と号令をかけた。
授業が始まったのに、私の気分はすごく沈んでいて、八木先生の言葉にも引っかかりを覚えてしどろもどろだった。
――どうしよう。こんなんじゃ駄目だっ。
そう思っているのにちっとも上手くいかなくて、配布のプリントをぶちまけたり、意味不明な解説をしてしまった。
そんな時、中学生って残酷だ。
真実が何かも分からない癖に、核心をついて本人の自覚のないままに相手に酷いことを時に発してしまう。
だから、私に向かって言ったことは、決して傷つけようとかじゃなくて、ちょっと冗談めかして励ましてくれようって意味だって頭では分かっているのに。
言われた言葉があまりにタイムリーすぎて涙が止まらなくなってしまった。