だって好きなんだもん
「はぁ……やっと捕まえた」
「響ちゃん、こんなことしていいの?」
「さぁな? だけど、お前のが大事」
そう言って私を下から覗きこむ響ちゃん。
私はドキドキして、すぐに顔が赤くなった。
「どうして、泣いてた?」
「え?」
「教室なんかで泣くなんて、おかしいだろう?」
「うん……」
「なにがあった?」
真剣な表情で見つめられるけど、私の頭には昨日の光景が思い出されれて悲しくなってくる。
泣いた原因を思い浮かべて、自然と目に涙がたまった。
「菜摘。言わなきゃ分からないだろう?」
「……うん」
「ちゃんと言ってみろ。大丈夫、聞いてやるから」
下から包み込むようにぎゅうっと私を抱きしめてから、響ちゃんは頬にキスをする。
こんなにいっぱい愛を感じるのに、私の脳内には昨日の光景が焼き付いて離れない。だけど、このままじゃ駄目だと思ってハッキリ言おうと決心した。
「見ちゃったの、昨日」
「何を?」
「響ちゃんが……田中美希先生と。ラブ、ホテルに入るとこっ」
言いきって涙が伝う。駄目だ、まだこんなに辛い。
私が泣くのを見て響ちゃんはため息を吐きながら、クシャッと前髪を乱した。
「はぁ……見てたのか」
「否定、しないの!?」
「あぁ。仕事だからな」
「何、が? ラブホに行くことが!?」
「そう、それが」
「わけ、分かんないよっ」
私は、意味が分からなくてポカポカ響ちゃんの肩を叩いた。
だけど響ちゃんは悪びれた様子もなく、私の態度を見て柔らかく笑う。
「落ちつけよ菜摘」
小さくクスクス笑いながら、叩く私の両手は呆気なく掴まれて捕えられた。
「だ……て、響ちゃんが、響ちゃんがぁ」
「俺だって行きたくないけど、仕方なかったんだよ」
「な、んで?」
「ん。実はな――」
そう言って響ちゃんは今週のことを話し始めてくれた。
どうやら月曜日の昼休み、校長先生のところにPTA役員の人が来て、うちの生徒がラブホ街をうろついてると言いだしたのがことの発端らしい。
そんなことを言われてしまうと、信じられないとは思っていても学校側としてはほっておく訳にいかない。
そこで独身で時間の融通もきき、生徒全員の顔と名前を認識できる響ちゃんは適任だと判断され、調査に行く役目を受けることになった。
しかしラブホを一人でうろつく男なんてそれこそ不審者だ。
そこで女性も同伴することになって――
「最初、春日井先生で……って案も出たんだけどな」
「え?」
「却下したんだ」
「誰が?」
「俺が」