だって好きなんだもん
――なんで? どうして私じゃ、ダメなの? もしかして、嫌?
「お前の考えてること違うから」
「へっ?」
「ほんとはお前とがいいんだけどさ……そしたら仕事じゃなくなるから」
「え?」
言われた言葉の意味がよく分からず首を傾げると、響ちゃんは私の頬を柔らかく抓ってから離した。
「俺だって健全な男だからな。目の前に好きな女がいてラブホまで行っておきながらなにもしないとか苦痛なわけ」
「え? え?」
「それに、菜摘は男性職員から人気が高くて、ほかの先生からの反発も大きかったの。で、一番無難な副主任の田中先生にお願いしたんだよ」
「……」
「分かった?」
「う、ん。じゃあ、田中先生とは」
「調査で入っただけで、受付まで。それ以上なんもないから」
「うそ……」
「ホントじゃ困るだろ?」
いつもの意地悪顔の響ちゃんが私を覗き込む。
「うん」
間近で覗き込まれるのはやっぱりなれなくて、私はを真っ赤な顔でコクコクと頷いた。
「大体、こんなことしたいのは菜摘だけだから……」
ふわりと体を起こしたかと思ったら、響ちゃんは耳元で、甘くて深い声で私にそんなことを囁いて――
ドサッ
さらりと私をベッドに押し倒して、深い口づけをしてきた。
そしてすぐに舌を絡められて、私はいとも簡単に悶えてしまう。
「んっ、ふ……んんっ」
こんなところで……なんて背徳の意識すらぼんやりするくらいに唇を貪られて、私はくったりと体の力をなくす。
そんな私に響ちゃんは、今思いだしたとでも言わんばかりに突然質問をしてきた。
「菜摘」
「ん?」
押し倒されたままの私は、響ちゃんの体にすっぽり収まったままで顔もすごく近い。
こんな距離、恥ずかしくてドキドキしちゃう。
けれどその直後、私は響ちゃんの一言で一瞬にして顔色を赤から青へと帰ることになった。
「なんでラブホ街に居たわけ?」
そうだった。
私、完全に墓穴掘ってた。
響ちゃんを見たってことは、私もそこに居たってことで。つまりは、誰かとそこに存在したってことになる。
だって、普通は一人で訪れる場所では到底ないから。
あくまで学校の仕事だった響ちゃんはやましいことは一切ないから全然悪びれてないけど、私は響ちゃんがいないあの日に、あの場所に用事はないはずなのだ。
完全に形勢は逆転し、私の背には冷や汗がだらだら流れている感覚がする。
「菜摘?」
超の付くくらい氷のような微笑みをたたえた響ちゃんは、私が目線を逸らさないようにぐっと顔を近づけて、瞳だけで責めてきた。
もう、真実を話すしか私に道はなかった。