だって好きなんだもん
「春日井先生、怪我されてるんじゃないんですか? 私が保健室に連れて行ってさしあげますよ」
なんて声をかけてきたのだ。
「い、いえ! とんでもないです! 怪我なんて舐めておけば治る程度ですから」
言いながら、今度こそ逃げよう!
そう決意していた私。
今度はしくじらないようにと足先に力を込めて踏み出したのに、貝塚先生はガシっと私の腕を掴んできた。
「いやいや、怪我は初期治療が肝心ですから。しっかり見ておかないと。あぁ……君にはそれあげるから、もう部屋に戻りなさい」
どうやら女子生徒に私の落とした缶を拾わせて、しかもあげると言っている。
――それ、私の桃!
と心の中で訴える私を無視し、響ちゃんは笑顔で生徒を見つめていた。
しかしその生徒は釈然としない様子で、果敢にも響ちゃんに挑んできた。
「先生。お返事いただけないんですか?」
「俺、生徒は好きだよ。だけど女子中学生を恋愛対象には見てない。悪いな」
悪びれもせずに軽くそう言って、その女生徒をただジッと見つめた。
「分かりました。貝塚先生らしいですね、その返答。お話……聞いてくれてありがとうございました。コレ、もらいます」
どうやら私の桃ジュース(しつこい)を貰うことで納得し、生徒は去っていく足音が聞こえた。
そして、そこで私を掴んだままの先生の手に気がついた。
「あ、の。貝塚先生? これ……」
言いながら先生の手を眺めると
「行きましょうか。手当」
やっぱり本気だった貝塚先生は、私を軽く抱きあげてさくさくと歩き始めた。
「ちょ、先生! 私歩けますからっ」
「怪我人はおとなしく担がれて下さい」
暴れて降りようとする私にピシャリと言い放って、構わずお姫様抱っこを続行してくれた。
渋々私は先生にしがみ付くことしか出来ずに、そのまま救護室にしている部屋に連れて行かれたのだった。