だって好きなんだもん
 誰かに見られたらどうしよう……


 そんな心配をしていたけれど、こんな時は意外にも誰にも見つからないらしい。


 あちこちで告白されちゃうようなこの先生にお姫様抱っこをされている私などが見つかれば、速攻で生徒から苛められてしまうこと間違いなしだ。


 怖い、こわすぎるっ。


 そんなことをぐるぐる想像していたら、気付けばゆっくりと座布団の上に降ろされた。



 「春日井先生。どちらの足ですか?」


 その時の響ちゃんのギラっと光った眼。それがホントに光ってるみたいに見えて怖かったのを今でも思い出す。


 「え、と右足……」


 質問に対して、真面目に答える。そうしたら彼は当然とばかりに私にこう告げた。


 「じゃあ、ズボン右の方捲って」


 そう言い置いて、貝塚先生はササッと立ち上がって離れて部屋の奥へ行ってしまった。


 貝塚先生は他の先生からの信頼も厚くいつも頼りにされていることもあって、あんまり一人の時を見ない。


 いつも誰かが隣にいるのだ。


 当然私はまだまだひよっこで、頼ることは多々あったけれど、それは職員室で……とか、多数の先生と一緒に……だとか。


 そんな風に誰かが周りにいてただ仕事の会話だけをしてたから、正直部屋に2人きりで仕事以外の会話なんてのはこれが初めてだった。


 そんなことを思い始めたら途端に意識してしまって、頬が火照って赤くなった。

 
 私はすぐに顔に出ちゃうから、それが自分の嫌な所だ。


 恥ずかしさを隠すように俯きながら、言われた通り擦りむいた膝頭をジャージをまくって出すと、少し血が滲んでいた。


 あぁ……私ほんと馬鹿。


 落ち込む私を余所に、救急箱を抱えた貝塚先生が傍に戻ってきて机に救急箱を置いた。


 「ホラ、やっぱり血が出てる」

 「で、でも。これくらい平気ですよ。あ、あの、先生?」

 「なんですか?」

 「私、自分で出来ますから、大丈夫です。お忙しいでしょうし、お戻りください」


 会話をしながら突然私の足に触れ、明らかに医療行為でもしようという体制に入る先生。


 それを私は慌てて押しとどめた。しかし相手は私よりも上手で、あっさりとそれを拒否する。

 

「いえいえ大丈夫ですよ。春日井先生には助けられましたし……このくらいしますから」



 えっと……助けたっけ?



 すっかり先程のアレコレを忘れきっていた私は、ゆっくりと首を傾げた。
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