だって好きなんだもん
おそらく先生と一緒にいたのは3分くらいのことだったと思う。


だけど私はその短い時間で頬をすっかり真っ赤にしてしまって……その赤みが引くまでにしばらくかかった。


 まさか、貝塚先生にあんなことされるなんて思ってなかった。


 それに、全然気にしてない様子だったし……


 23歳まで生きていたら、当然私にだって彼氏はいた。


 だけど、こんなにドキドキさせられたのは初めてだった。


 また思い出していたら顔が赤くなりそうになった私は、慌てて今のことを忘れて貝塚先生に言われた通り就寝の確認をしに生徒の部屋を回って歩くことにした。


 生徒の部屋は、当然男女別。だけど、先生は男女どちらの部屋も巡回する。


 見回りは1陣と2陣に分けられていて、1陣の貝塚先生と違い2陣だった私は少し遅れに部屋を出て問題なかった。


 1部屋ずつそっと回る。


 今日は最終日なので、確認が終わったら先生の打ち上げをすることになっていた。


 当然私も参加することになっている。


 いそいそと部屋を回り、あと1部屋。


 この男子部屋が問題なければ終わり……のはずだった。


 ゆっくりとカチャっとドアを開け


 「みんな、寝てるかな~。」


 静かに声をかける。


 1部屋4人。


 卒業旅行なので、ひどい雑魚寝状態ではない。なのにちょっと熱気を感じた気がする。


 ――ん? 今、11月だよね。なんか暑すぎないか?


 そう思った時には


 グイっと誰かに手を引かれて、私は部屋の中へと引き込まれていた。


 「きゃあぁっ」 

 
 思わず叫ぶ私を余所に、暗闇の中妙な歓声が起こった。


 「せーんせっ! 叫び声可愛いねー」
 「きゃはははっ」
 「かっわいーー!」


 どうやら私は手を引かれた勢いでそのまま布団にツッコんで転がってしまっているらしい。

 
 しかも雰囲気と声から察するに、私がすでに就寝確認で寝ていたはずの男子生徒までもがこの部屋に居るのだろう。


 人数は多分10人くらい。


 普段受け持ちしていない学年だけに、ちょっとづつ顔と名前を覚えていたけど、この暗がりでただでさえ分かりにくい。


 誰一人分からない。


 「ねぇ。俺たちにさ、大人の寝るっての教えてよ~」

 「いいね、いいねぇ」

 「俺も知りてぇ~!」


 なんて声が次々聞こえてくる。


 「え、な、何が!?」


 私はこの状況にパニくってまともな思考が働いていなかった。


 「何が? だって~」

 「先生、チョー可愛い」

 「先生なんて言って、ホントは学生じゃね?」

 「ぎゃはは! ソレ犯罪だし~」


 生徒たちは思考の追い付かない私を余所に、お祭り騒ぎのように盛り上がり始めてしまった。
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