未成年・恭~【恭&綾シリーズ】2
「バスロープがあったでしょう?」
「いいよ。ジーンズちょうだい」
俺は綾の背後から腕を伸ばし、ジーンズを掴んで足を通す。
そんなに一生懸命アイロンまでして、俺を帰らせたいのかなぁと思うと、ここにいること自体が苦痛になってくる。
俺が綾に抱く想いと、綾が俺に持っている想いはこうまで違うものなのか。
「なにか、怒ってる?」
シャツを掴んだ俺を見上げる。
「怒ってなんかないよ。ただ――」
心配そうに俺の目を覗き込む大きな瞳が目に入る。
「ただ、綾の言うとおりにしようとしているだけだよ」
「――ごめんなさい」
大きな瞳の中で水滴が揺れる。
「ごめんなさい。ほんとうは恭と一緒に過ごしたいなって気持ちもあるの。でも、わたしね――、わたしのしてることって恭を振り回してるよね」
綾が俯く。
「どうしてそこで泣くんだよ? どうして――」
なにかが噛み合っていない。
俺と綾のあいだで。
何を言われたわけでも、何を言ったわけでもなく、ただ、そういうものを感じ取ってしまったような気がした。