廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
昭和十八年 廣島
陸軍静岡歩兵第34連隊
これに配属される補充兵、約120人が
軍都と言われていた広島の中心地にある広島駅に下り立った。
年末押し迫った寒空の下、皆の足取りは、決して軽くはなかった。
彼らは、当時多くの兵隊がそうだったように、広島県宇品の港から中国大陸(当時の呼び名で支那)に送られる。
昭和16年の開戦から丸二年。戦局は狂って久しい。
ミッドウェー海戦での敗北以来、日本は劣勢を逆転できずにいた。
歩兵第34連隊、補充兵の中に、人一倍落胆の表情を浮かべている者がいた。
遠藤 悟(えんどう さとる) 20歳。
徴兵検査を渋々受け、甲種合格通知が届いて間もない召集だった。
静岡から汽車で遠路遥々広島の地にたどり着いたときには、もうすっかり日は落ちていた。
その日は広島で夜を越し、次の日に船で大陸へと送られる。
日本の地を踏むのは、これで最後かもしれない。
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