廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
女郎は、その言葉を聞いて目を見張った。
『驚いたねぇ。お客に【アカ】はおったけど、さすがに逃亡犯はおらんかった』
女郎は、詳しく聞きたがる。
『やっぱり半殺しかね?身内もやられて村八分って聞いたけど……』
悟は黙っていた。
『明かりを行灯(あんどん)にしてくれないか?』
女郎は言われた通りに布団わきにある行灯に火を着けた。そうして電灯の明かりを消す。
行灯の明かりだけになると、やはり妙に卑猥である。
『兵隊さん。抱いてくれんの?』
女郎は赤い着物をカサリと脱いだ。
襦袢だけの彼女は、驚くほど繊細である。
彼女は悟の厚い胸板に頬を寄せた。
『真新しい軍服の匂い。うちはこの匂いが嫌いじゃ。父親を思い出す。
どうか脱いで下さい』
女郎の白い手は、軍服のボタンをひとつ、またひとつと外す。
悟の性は自制心を失う。
『おようさん……』