廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『妖艶の妖(よう)で お妖ってのはどうだい?』
女郎は名前を平仮名でしか書けないと言った。
戯れの最中に、悟はそう思い付いた。
『どんな字……?』
悟は彼女の下腹部に指ですっと『妖』の字を書いてやる。
行灯の薄明かりは、彼女の肌理細やかな肌を照らす。
『嫌な字』
おようは眉間にシワを寄せる。
『太陽の【よう】がいい。ここに書いて』
【陽】の字を書くと、彼女はくすぐったそうに身体をよじらせる。
『うふっ、いい。……その字がいい』
悟は意地らしくなって、そこに口づけを落とす。
『君はいい女だ』
悟は、お陽を胸に抱く。
『今まで寝た女の中で、君が一番だった』
お陽はクスクスと笑う。
『一応、生業じゃからねぇ』
『オレはどうも下手くそでね』
『みんな、女郎を抱いて上手くなるんよ』
『君を抱くことは、二度とないかもしれん』