廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜

極寒の地での野営は悲惨であった。



悟は微熱が続いていたため、健康な者とは別のテントで寝かされる。



悟のテントは高熱でうなされる者が数人一緒に寝かされていた。


物資の不足で、食料も満足に無ければもちろん薬などあるわけはない。


まともな軍医さえおらず、悟たちの部隊と同行していたのは獣医師だった。


従軍看護婦も熱病の感染を恐れて負傷者にかかりきりになっていた。




悟の隣では40度近い高熱を出している同じ年の戦友がうなされていた。



夜になると、外気はマイナス20度にもなる。


悟はまだ動くことが出来たから、外から麻の巾着に一杯の雪を取ってきて戦友の額を冷した。



狭いテントの中は、病名さえわからない熱病にうなされる者ばかり。







『なんてことだ……』




悟は呆然とする意識の中でその光景を嘆いていた。




遠い故郷を思い出して見ても、浮かぶのは父母の顔。


自分を売って兵隊にさせ、こんな目に遭わせた親の顔だ。



【親不孝者!】

【非国民!】



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