廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
《母さん。一番の非国民は、オレたちをこんな目に遭わせる作戦を立てた参謀だよ》
心の中で呟いてみても、絶望するばかり。
やがて朝になり、悟が目を覚ますと、隣の戦友は息絶えていた。
その晩に死亡した兵隊は、同じテントの中で三人。
悟はその遺体を焼却するために焼き場に運ぶ。
日本人が経営していた大きな兵器工場の焼き場を借りて遺体を焼くのである。
明日は我が身。
遺体が並んでいるのをみても、もはや何の感情もわいてこない。
《この世の地獄だ》
悟は遺体を運んでテントに帰る途中で意識を失い、その後10日間、目を覚まさなかった。
悟は死んだものと思われていた。
彼が目を覚ましたのは、同じ焼き場だったのだ。
次は悟の番であった。
焼かれる際に身体を覆っていたむしろをはぐられた時、彼は目を覚ました。
『なんじゃ、お前!生きておったか!』
焼き場の工員は腰を抜かすほど驚いていた。
まさに九死に一生である。