廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
悟が意識を失っている間、連隊はどんどん進軍していた。
既に茶州という土地に入り、さらに南を目指していた。
病から回復した悟は、新しく補充された兵隊たちと共に、連隊のあとを追うように命令を下される。
しかし、当時病気療養しながら、日本人経営のアルコール工場で手伝いをしていた悟は、醸造の科学者と仲良くなる。
10代の放浪中、教えられたままに、酒を作り高く売って歩いた経験を持つ悟は、
新しい醸造の技術を、知らぬ間に手に入れていたため工場の人間に重宝がられた。
その工場は、軍にかなり貢献していたので
その工場長が悟を工場に借りたいと働きかけてくれた。
そうして、悟は兵隊として召集されているにもかかわらず漢口という場所で一年以上工員として働くことになった。
このことが、彼の人生を大きく左右することになるのだった。