廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『広島には空襲は?』
『あぁ、まだ無いねぇ。B29みたいなのが沢山飛んでいくのを、防空壕から恐る恐る見たことがあるよ。警報だけで爆弾はまだ』
『軍都って言われてるからね。ボチボチかもしれないよ』
『兵隊さん、どちらから?』
『静岡』
『まあ遥々と。ご苦労なこと。内地で?』
『大陸です。明日、宇品から……』
火鉢の火で手を温めながら、女郎は悟に手招きをする。
『兵隊さんも、こっちへ。温めてあげよう』
悟は、異様に照れてしまって、窓際から動けないでいた。
女郎はクスっと笑う。
『あんた、初めてかい?』
悟は照れ隠しに、女郎に背を向け、また窓の外を眺めた。
『はい。こういうところは初めてですよ』
『あんたの容姿じゃ、素人女がほっとかないじゃろうねぇ。今夜は大当たりじゃ』