廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『大当たり。こりゃいいや』
悟は窓の薄いガラスに映る自分の顔を見て、ケタケタと笑う。
『やっと笑ろうてくれたね。兵隊さん。さあ、こちらにいらっしゃいな』
悟の容姿は女郎の言うようにキリリとした二枚目で、背の高さもその頃としては珍しく180cmほどあった。
しかし、兵隊に行くことが前提の日本男児にとっては背が高いことは致命傷である。
【鉄砲玉の標的】
悟は周囲からそう言われて育った。
高身長であることも、端正な顔立ちも、家族の中に共通するものはいない。
悟のそれは、遺伝子上の実父から受け継いだものに違いなかった。
『あんた、映画俳優になればええような顔をしとる』
女郎は火鉢で温めた手をスルリと伸ばし、悟の顎をツイィと触った。
『映画俳優か。考えも及ばなかったよ。生まれ変わったら、是非やってみたいところだ』
悟は女郎の乱れ髪に触れた。
彼の中には、身体を売っている女に対する偏見があった。
まして、以前住んでいた大阪には、同じ長屋に遊女上がりの女がいて
彼女は梅毒にかかっていた。最後には鼻が欠け見るも無惨な姿で死んでいたのだ。