廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『おようちゃん、熱燗だよ』
白粉が塗られた女郎の首筋を眺め、思案していると、先ほどの女中、たみが入ってきた。
『ありがとう。おたみさん。そこへ置いといて。……あら、関東煮?珍しいこと』
おたみの置いて行ったツマミは、温かい関東煮(おでん)だった。
『こんにゃくと大根と芋……ごめんなさいね。他の宿ならもっとまともなものが……』
女郎は盆をすっと、しおらしく悟の前に差し出した。
それが、さっきのキセルを吸って客待ちをしていた姿からは想像できないほど、可憐であった。
『どうぞ』
女郎は、首を傾けお猪口を手渡す。
『……』
悟は彼女の色気に魅了されていた。
お酌をしながら、乱れ髪を整える。
そうしてそぉっと正座をした足を乱していく。
やはり遊郭の女だ。
悟は注がれた酒をグイッと呑んだ。
『おようさん……というのかい?』
杯を返杯しながら悟は彼女に訊ねた。
『あらいやだ。覚えられてしもうた』
彼女は頬を少し膨らませる。