鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
直人と米本の出会いは、直人のデビュー戦の時にさかのぼる。その時、直人はデビュー戦の予選を12位で通過していた。酷く暑い日だった。直人に緊張は無かったが、暑さが身体を蝕んでいる事実を、直人は気づかずにいた。その時の直人は今と比べると致命的に身体能力が足りていなかったのだ。決勝が始まって、レースの半分ほどが過ぎた時、直人はようやく自分の身体の異変に気づいた。平衡感覚が狂っているようだった。酷い頭痛と吐き気が直人を襲ってきた。意識が朦朧とし、周回数すらわからない状態になっていた。そしてその時がやってきた。アクセルをコントロールする右手が全く利かなくなり、直人はカーブを減速することなく突っ切ると、そのままタイヤバリアに突き刺さった。正面から突っ込んでしまったが、その前の段階で弱った右手の握力が、アクセルをだいぶ緩めてしまっていたおかげで、直人は特に大きいケガを負うことはなかった。だが、直人にとって辛かったのはこの後だった。仰向けになって倒れた直人はヨロヨロと立ち上がると、ヘルメットを脱いだ。その瞬間だった。酷い頭痛と吐き気が再び直人を襲った。直人はその場にうずくまり、胃の中のもの全てを吐いた。吐くものが無くなっても、胃液がまるで逆流しているかのように吐き続けた。息ができないほど苦しかった。一瞬、死ぬかもしれないと、直人は本当にそう思ったほどだった。その直人の身体を誰かが力強い腕で、地面から引き剥がした。それが米本だった。米本は直人の身体をまっすぐにさせると、こういった。
「自力で立て!」
あくまで冷静で。しかしその声には力がこもっていた。
「いいか、プロのライダーになりたいのなら、ライディングを磨くのと同じように自分の身体を鍛えろ。路面の温度や過酷なGはマシンだけでなく自分を襲う。それに耐えうる身体が無いヤツは、どんなにテクがあっても、サーキットは走れない!」
遠のいてゆく意識のなかで、その言葉だけは直人の心に刻まれていた。
それ以来、直人にとって米本は師匠であり、恩師でもあり、なにより最大の目標になっている人物だった。
「自力で立て!」
あくまで冷静で。しかしその声には力がこもっていた。
「いいか、プロのライダーになりたいのなら、ライディングを磨くのと同じように自分の身体を鍛えろ。路面の温度や過酷なGはマシンだけでなく自分を襲う。それに耐えうる身体が無いヤツは、どんなにテクがあっても、サーキットは走れない!」
遠のいてゆく意識のなかで、その言葉だけは直人の心に刻まれていた。
それ以来、直人にとって米本は師匠であり、恩師でもあり、なにより最大の目標になっている人物だった。