鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
直人は部屋でマシンを整備していた。数日前の心地よい走りを思い浮かべながら。その横には雅之がいつものように勝手に上がり込んで、テレビのニュースを見ていた。それはいつもの、本当にいつもと変わらぬ光景だった。
直人がエンジン調整の最後に、プラグを取りつけようとしていた時に、そのニュースが入ってきた。
「おい直人!、てっ、テレビ見てみろよ!」
「なんだよ雅之…」
その時の直人は、そんな事態になろうとは予期していなかった。いや、それは誰も考えなかったことだろう。
「水着のねーちゃんがぽろっとでもいったのかよ」
言いながら直人は、面倒くさそうに顔をあげてテレビに目線を合わせた。女性のニュースキャスターが、早口でまくしたてている。そして…。直人の目に流れるテロップが飛び込んできた。
”カシャーン”
直人の右手に握られていたスパナが、支えを失って落ちた。真下にあったオイルパンと当たって、金属的な音が部屋に響く。
「なっ…」
その言葉は雅之と直人のどちらが発したものかわからなかった。しかし、2人は間違いなく言葉を失っていた。部屋にはテレビの音声だけが響いている。
「…もう一度繰り返してお伝えいたします。今日、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで行われていたオートバイの全日本選手権、750ccクラスの第2戦で、プレイヤーズ・ホンダの米本一樹選手が最終コーナーで転倒、そのままコースサイドのタイヤクッションに激突し、病院に運ばれましたが意識不明の重態です。当番組では、このレースを取材していた、テレビ鈴鹿の取材クルーが納めていた、事故の瞬間の映像を入手しましたのでご覧いただきましょう…」
直人がエンジン調整の最後に、プラグを取りつけようとしていた時に、そのニュースが入ってきた。
「おい直人!、てっ、テレビ見てみろよ!」
「なんだよ雅之…」
その時の直人は、そんな事態になろうとは予期していなかった。いや、それは誰も考えなかったことだろう。
「水着のねーちゃんがぽろっとでもいったのかよ」
言いながら直人は、面倒くさそうに顔をあげてテレビに目線を合わせた。女性のニュースキャスターが、早口でまくしたてている。そして…。直人の目に流れるテロップが飛び込んできた。
”カシャーン”
直人の右手に握られていたスパナが、支えを失って落ちた。真下にあったオイルパンと当たって、金属的な音が部屋に響く。
「なっ…」
その言葉は雅之と直人のどちらが発したものかわからなかった。しかし、2人は間違いなく言葉を失っていた。部屋にはテレビの音声だけが響いている。
「…もう一度繰り返してお伝えいたします。今日、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで行われていたオートバイの全日本選手権、750ccクラスの第2戦で、プレイヤーズ・ホンダの米本一樹選手が最終コーナーで転倒、そのままコースサイドのタイヤクッションに激突し、病院に運ばれましたが意識不明の重態です。当番組では、このレースを取材していた、テレビ鈴鹿の取材クルーが納めていた、事故の瞬間の映像を入手しましたのでご覧いただきましょう…」