鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
その言葉はひどく冷たく、そして重かった。雅之も複雑な顔をしている。だが、雅之はあえてそれを黙っているようだ。直人はわざと間を置いた。本当は答えは決まっているのに…。直人は真紀に尋ねた。
「…両方って答えは…君達は望んでいないんだろ…」
”達”とはもちろん、目の前にいる真紀と、ここにはいない玲美を指していた。真紀は黙っている。
直人は始めから決まっていた答えを出すことにした。もちろんその後に何が起こるかを予期できないほど、直人は馬鹿じゃない。それでも直人はその答えを出すしかなかった。
「…本当は…玲美って答えなくちゃいけないのかもしれない…・だけど…俺にはそんなことは言えない…」
一瞬、真紀はすごい形相になった。雅之は顔色を凍りつかせている。
「武田くんて、玲美のことそんなふうにしか、考えてなかったんだ…」
真紀はそう言って、すっと立ち上がった。直人はその横面をひっぱたいてやりたかった。なにより、雅之に援護を求めたかった。2人は何も言わないまま、部屋を出ようとした。
“こうなることはわかっていた…。わかっていたケド…”
直人は意を決した。
「ちょっと待てよ!」
一生のうちで一番低い声、直人はそれで言ったつもりだった。2人は足を止めた。
「…じゃあ、聞くが…」
直人はそう前置きして、大きく息をついた。
「…じゃあ、玲美はどんな俺を好きになったんだ…」
その言葉の半分は、自分に対して投げかけたものだった。そしてもう半分は、今はここにいない、玲美に投げかけたものだった。雅之と真紀の背中にめがけて言葉を放った。
「…俺が俺であるために…そのために俺は走る…」
半ば開かれたドアが、風に揺られて軋んだ。雨が横殴りに部屋に入り込んでくる。
「…もし、玲美に会うことがあるなら…」
直人はそう言って、最後の言葉を投げつけた。おそらく、自分自身にも決意を促すための最後の言葉を…。
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