鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
思い返して考えたことは、たった一つ。忘れられるわけはないということだけ。それでも直人は、彼女が必ず来てくれるはずだと信じていた。直人は1回目の最終コーナーを立ち上がっていく。雨のために人影まばらなスタンドには玲美の姿はなかった。だが、それを悲しむ時間などなく、わずか数秒でストレートを抜けて、再び第1コーナーへ飛び込んでいった。S字を軽く抜け、逆バンクへと飛び込む。
「玲美は来る…」
思いながら直人は、ストレートから第1コーナーへ飛び込んでいった。考えていることはこのレースのことではなく、玲美のことだけだった。段々意識が飛んでくる…。
”今、どこにいる…?サーキット…。何をしている…?玲美のことを考えている…。じゃあ何故今、俺はバイクを走らせている?何のため?いったいどうして…?”
何もわからなかった。静かな…、そう、マシンのエグゾーストも聞こえない真っ白な世界を漂っているようだった。ライディング・ハイ。バイクの雑誌だったかに載っていたのを読んだことがある。そんな状況なのか?今の直人は、先を見ているわけではない。もちろん後ろを振り返っているわけでもない。あえて何か一つを挙げるとしたら、ただ、最終コーナーの立ち上がり、そうグランドスタンドの彼女の姿だけを捜していた。5回目の最終コーナーには、その姿はなかった。雨はますます強くなり、直人の気持ちはますます、暗いものになっていく。少なくとも、雨については直人には全く気にならなかった。直人にとって、外の世界の雨など本当にどうでもよかったのだ。それよりも、自分の内側の世界での雨の方が辛かったのだから。だんだん醒めていく…、現実に…。
「フッ…」
直人はヘルメットの中で思わず苦笑いを漏らした。なんて自分にあわないことをやっているんだろう。いつからそんなにストイックなタイプになったんだ。そう直人は思いつつ、6回目の最終コーナーを立ち上がった。その時、直人は意外なものを目にした。ピットウォールに並ぶ各チームのサインボード。サインボードはチームの戦略とマシンの状況を、レース中にライダーに伝える伝達手段である。だが独りで参戦している直人にサインボードが出るはずがない。それなのに、なぜか直人のマシンナンバー、12が入ったサインボードが目に飛び込んできたのだ。直人は慌ててそれを持つのが誰かを確認した。
「玲美は来る…」
思いながら直人は、ストレートから第1コーナーへ飛び込んでいった。考えていることはこのレースのことではなく、玲美のことだけだった。段々意識が飛んでくる…。
”今、どこにいる…?サーキット…。何をしている…?玲美のことを考えている…。じゃあ何故今、俺はバイクを走らせている?何のため?いったいどうして…?”
何もわからなかった。静かな…、そう、マシンのエグゾーストも聞こえない真っ白な世界を漂っているようだった。ライディング・ハイ。バイクの雑誌だったかに載っていたのを読んだことがある。そんな状況なのか?今の直人は、先を見ているわけではない。もちろん後ろを振り返っているわけでもない。あえて何か一つを挙げるとしたら、ただ、最終コーナーの立ち上がり、そうグランドスタンドの彼女の姿だけを捜していた。5回目の最終コーナーには、その姿はなかった。雨はますます強くなり、直人の気持ちはますます、暗いものになっていく。少なくとも、雨については直人には全く気にならなかった。直人にとって、外の世界の雨など本当にどうでもよかったのだ。それよりも、自分の内側の世界での雨の方が辛かったのだから。だんだん醒めていく…、現実に…。
「フッ…」
直人はヘルメットの中で思わず苦笑いを漏らした。なんて自分にあわないことをやっているんだろう。いつからそんなにストイックなタイプになったんだ。そう直人は思いつつ、6回目の最終コーナーを立ち上がった。その時、直人は意外なものを目にした。ピットウォールに並ぶ各チームのサインボード。サインボードはチームの戦略とマシンの状況を、レース中にライダーに伝える伝達手段である。だが独りで参戦している直人にサインボードが出るはずがない。それなのに、なぜか直人のマシンナンバー、12が入ったサインボードが目に飛び込んできたのだ。直人は慌ててそれを持つのが誰かを確認した。