鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
「君は進路をどうするつもりだね」
担任の先生が俺を職員室に呼んで言った。このところ、放課後のこの時間が日課になっていた。先生がいつも同じ質問をくり返すように、俺の返事もいつも同じだった。
「俺、GPライダーになります」
そう言うと、先生は明らかに不満げな顔になる。最初は鼻で笑っていたのが、最近では怒鳴り散らすようになった。
「武田!お前本気で言ってるのか!あんなものは世界中のほんの一握り、いや、それよりも少ない、選ばれた者のみが行ける世界なんだ!お前みたいなのが行ける世界じゃない!」
そんなことは、お前に言われなくてもわかっている。まさか希望者全員参加のGPレースなんていうものがあったら、それこそ大変だ。よっぽどそう言いたかった。コイツはこんな調子で、高校3年の始めから卒業式の当日まで、毎日俺に罵詈雑言を浴びせ続けた。卒業式が終わったら、1発ブン殴ってやろうと考えていたのに、一足遅く、同じことを考えていた隣のクラスの奴に先を越されて、俺が駆けつけた時には、すでに殴る余地が残されていなかった。それ以来、頭に来たらすぐにブン殴ることにしている。とは言っても、いままでそれに当たった奴はいないが…。
結局俺は高校を出てフリーターをしながら、レース活動を始めた。ノービス、それが俺に与えられた称号だった。初めてのレース、今でもはっきり覚えている。上位ライダーの次々のトラブルで、俺は着実に順位を上げていった。だが、終盤になって…。頭の中にあの時の衝撃が蘇った。気がついたらサーキットの医務室のベットの上だった。幸いにして俺は、いまだにレースを続けられる体である。だが、あの時は本当に死んだのかな、と思った。そんなことを俺は夢の中で思い出していた。その時、俺はなんとなく体がゆさぶられていることに気づいた。
「おい直人、起きろよ」
「んっ…んん…」
< 5 / 49 >

この作品をシェア

pagetop