鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
その居酒屋の中は若者でごったがえしていた。奥の方には中年のオヤジがいるのも知っていたし、そのオヤジどもが、近ごろの若い奴はと毒づくのも聞こえていた。直人はあたりを見渡して思った。どう考えてもここは居心地が悪いのだ。回りは自分より年下だけ、そう、仲間と一気飲みをくり返していたころからは、もう何年も時が流れている。その自分が今ここにいる。24、もうそんな歳だ。それなのに…。
何故だか直人は辛かった。しかし、それとは反対に直人のいるテーブルはどんどん盛り上がっていく。
「…でさ、そいつってばな…」
雅之の話術が冴え渡っている。2人の女の子は夢中になって話に聞き入っていた。彼女たちには、今直人が考えていることなど、みじんも分からないだろう。直人は自分を呪っていた。この場にいてふっきれない自分。雅之は称賛に値すると思うほどだ。自分にはそうはなれない。そしてそんなことを考えてしまう自分…。直人は辛かった。
「…そうなんだよ、まったく…んっ、おい直人!全然飲んでないじゃないか!ほら飲め!そら飲め!やれ飲め!こら飲め!飲め!飲め!飲み干せ!干せ!泡吹くまで飲め!倒れるまで飲め!」
突然雅之が話を途中で止めて、直人のグラスにビールを継ぎ足した。メシを食ってツーリングという雅之の計画は予想外の変更を見せ、メシからカラオケに流れ、ここはその後2件目の居酒屋だ。彼と彼のターゲットの真紀ちゃんとは、これまた予想外のマッチングで、これから行く場所の想像は傍から見ても、すぐに分かるほどだった。
「ほら伊藤くん、やめなさいって」
そのターゲット、真紀ちゃんが雅之をたしなめる。
”うん、確かにいいムードだ”
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