鈴鹿の最終コーナーを抜けたら…。
「雅之!お前わかってんのかよ!」
直人は雅之を怒鳴りつけた。雅之は二日酔いで今にも頭を破裂させそうになっていた。
「たのむよ直人、そんなに大声出すなって。あの場を乗り切るにはそれしかなかったんだよぉ。いいじゃないか、あの後俺は真紀とゴール・イン、お前もうまくやれたんだろぉ」
「この大馬鹿野郎!あの娘とは何もしてねぇよ!」
蚊の鳴くような声で話す雅之に、直人は思い切り怒りをぶつけていた。
「彼女たち本当に来るんだろ!どうすんだよ!俺は!」
そこまで言って、直人は次の言葉を失った。
「俺は…」
そこで途切れた直人の言葉の続きを、雅之は発した。
「完走したことがないって言うんだろ…」
そう、雅之の言う通りだった。直人のいままでの戦績は21戦21敗。いやもっと細かく言えば、21戦連続完走なしという惨憺たるものだったのだ。なだめるように雅之が言う。
「お前は速いんだよ。峠道を攻めてたころから、お前にかなう奴なんていなかった。その気になればお前は…」
「気休めを言うなよ!」
直人は雅之の言葉を遮った。そう、いつもほんの少しだけ、運が足りなかった。上位争いの最中の転倒、マシンのトラブル、もらい事故。レースに、「たら・れば」は禁物というが、本当にそう考えたときもあった。しかし、それがレースなのだ。直人はそう割り切っているつもりだが、逆にそれがコンプレックスに繋がっているということもわかっている。
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