ﾗｽﾄｺｰﾙ

一日目

『征ちゃん。』
ずっとずっと、好きだよ―
彼女の声がこだまする。
もっと触れていたいのに遠くなっていく距離。
何処かで鳴り響く携帯の音に目が覚めた。
「夢・・か。」
枕元の携帯を開けば非通知の番号からかかってきていた。
放っておこうとしたが未だにやむ気配のない携帯。
このまま貴重な睡眠時間を妨害され続けるのは明日の、いや今日の学校にかかわってくる。
仕方がない。一度、出てみよう。
携帯を右耳にあてボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし?』
聞こえてきた声は女だった。年齢は中学か高校ぐらいか。
「･･･何のようだ?」
『こっちの台詞です。昨日3回ぐらいかけてきたでしょう?』
全く知らない相手がそう言った。
かけた覚えなど無論ない。
「覚えてないが･･･?」
『あれ?まぁ、いいわ。貴方私の知り合い?』
「いや。」
彼女の喋り方に違和感を覚えた。淡々と切り返してくる喋り方。素っ気ないもの言い。でも喜怒哀楽の激しい口調。
どこかで知っている気がする。
『もしもし?電話切ってないよね?』
頭に過る僕の1番大切だった人。懐かしく幸せだった頃の古い記憶。.....ちょっと待て、この声。
この声は....
『ちょっと、返事して。』
嘘だろ?
『ねぇってば、聞こえてるの?』
「っあ、ああ。聞こえてる。」
僅かに携帯を持つ手が震えた。

まさか、そんなことが。僕の勘違いかもしれない。というかこんな非現実的なことが。
この出来事を否定する自分も居れば固定したい自分もいる。
何か、何か確信できることはないのか。

『私の携帯に電話した覚えもないのよね。』
「あぁ。ところで、君の友達に目立つ金髪はいるか?」
『え?』
頭に横切った金髪頭。
僕の想定していることが間違いでなければ彼女は彼を知っている。
金髪頭のヤンキー・但馬薫と、背の高い色黒の外国人・ジョーダット、眼鏡をかけた真面目な生徒会長・細川隼人、そして僕と彼女。いつも一緒にいたメンバー。
それにしても、自分の発した言葉に呆れる。まさか、あり得るはずがないと思っていながら、それでも1%もない可能性だとしても。
もしものこの出来事が現実になるのならば。
『いるけど。彼、ヤンキーよ?』
「片目はカラコン?」
『そう、青色。』
「そして関西弁」
『何で知ってるの?』
まさか、という可能性が確信に変わった。
この声に喋り方。そして彼女の友人は僕の中学時代の友人でもある男だ。
「他に、背の高い色黒の外国人、眼鏡をかけた真面目なクセに成績悪い生徒会長がいたりしない?」
『全部私の友達だけど?』
若干、苦笑いしている声が聞こえる。間違いない、あんな個性的なやつらの友人なんて限られている。だが、どうして、どうやって。疑問ばかりが出てくる。
『すごいね。同じ学校?』
「いや、違う。」
『どうして分かったの?』
「いま、何月何日?何年だっけ?」
『どうしたのいきなり?20xx年の7月25日だけど。』
「そうか、ありがとう。」