ラストコール
「普通に?」
『聞いているのは私。そして何故、疑問系なの。』
間髪いれず鋭いツッコミがきた。
相変わらず素晴らしいタイミングだな。ふと笑みが浮かぶ。
にしても今日の彼女はやけにしつこいな。…まさか、こういうことを聞いてくるということは、もしかして。
『普通って…、どんな感じ?』
「…誰だ」
『?』
「誰に惚れた?」
思ったより低い声に自分でも驚くが、今はそれどころじゃない。
彼女のこの頃、惚れた相手。薫か、よく一緒に遊んでいたし。まさか…ジョーダットか?彼女は彼しか名前で呼ばないからな。
好きな人ほど虐めたいという感じで。無自覚ドSの彼女のことだ。充分にあり得る。
『だ、誰って…教えないわよ』
「教えてもらわなければ助言が出来ないな。…それに僕に言っても分からないよ」
嘘だ。本当はすぐ分かる。
中学時代の…仲間のことなのだから。
『…ぜ、絶対に誰にも言わないでよ?他言無用よ?』
「ああ、」
あの時は知らなかった彼女のことが今になって知れる。例えそれが過去の自分の失恋内容でも。
少しでも多く、彼女のことを知れるなら良いんだ。
ごくっと無意識に喉がなった。
『…誠一に、いつも話している人。』
名前を聞かずとも、もう分かった。彼女が僕に話していた話は大半が薫だ。そうか、彼女の好きな相手は薫だったのか。
『やっぱり、名前は言わないけど…どうしたら仲良くなれるかな?』
「…いつも仲良さげだったじゃないか」
『え?』
…まずい。勢いでそう言ってしまった。これでは、まるで僕が詳しく知っているみたいじゃないか。
『そう?誠一に話したのは喧嘩した話しばっかりだったじゃない。』
「…喧嘩?」
いつも喋っていた二人だが、彼女に声を上げた姿など見たことがない。
『私も喧嘩するようなことするの悪いんだろうけど、アイツにも絶対非があると思う。』
薫?喧嘩?非がある?
彼女から発せられる言葉が自分の考えていたのと違っていて混乱する。
『私は誠ちゃんに嫌われてるのかな?』
「…っ、い…いや」
僕の絞り出した声が聞こえたのか、彼女の喜ぶ声が聞こえる。
その後、彼女が何と言ったのか、真っ白になった頭では分からなかった。少しして、『じゃ、おやすみ!』と聞こえた声に返事をすると電話が切れた。
顔に熱が集まるのが分かる。
僕は携帯を握りしめたまま、片方の手で情けなく開かれたままだった口を覆った。
「………バカ…」
(今頃、知ってしまった真実に)
(嬉しさ半分、戸惑い半分)
ふと画面を見ると、残り2の文字
「2?」
このカウントが始まったのはいつからだ。
きっと、彼女との電話が始まってから。
何で減っていっているのか?何時―?
確認するのは、彼女との電話の後。
やはり、このカウントダウンは彼女との電話のカウントダウン。
「…っふざけるな!」
ぼふんとおとがする、
そう思ったのとほぼ同時に携帯を投げつけていた。
幸い投げた場所が敷きっぱなしだった布団のおかげで、壊れた様子はない。
「ふざけるなよ…」
立っていることもままならず、ずるずると床に座り込む。
足が震えていて立つことは出来なさそうだ。
勝手に僕と彼女を繋いでおいて、勝手に終わらせるつもりなのか。まだ初めて電話がかかってきてからそんなに日にちは経ってない。
まだ彼女に話したいこと、話さなければならないことが沢山あるんだ。
あの時、伝えられなかったことも今、伝えたくて仕方がないことも。何も、話せていないのに。
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