ラストコール
最終日
今日は、あの日だ。2年前の今日が、最悪の日だった。
携帯を開き時計に目をやる。…後10分。いつも電話がかかってくる時間になるまで後10分。早くかかってきて欲しい。声が聞きたい話したい。それとまだかかってほしくない。最後なんて嫌だ。という感情が溢れだす。
まさに矛盾。だけど、そもそもこの電話に出ないなんて選択肢は僕にはないんだ。
震え出した携帯を手にとる。ゆっくり、大きく深呼吸してから通話ボタンを押した。
「もしもし、」
『誠一ぃ』
開口一発目からしょげた声が聞こえてきた。「どうしたんだ?」と言えば、彼女は少し間をあけて
『わ、私…言った』
「…何を?」
『誠ちゃんに好きと…』
衝撃がはしった。体全体の機能が一気に低下していく気すらする。僕は、"僕"は、彼女からそんなこと言われた覚えがない。まさか、彼女は…僕の過去には無い行動をとったのか?
過去が、変わった…?
『そしたら誠ちゃん…』
「…なんて」
『す、好きな人がいるって…。』
ぐすっと鼻を啜る音がする。僕が聞きたくなかった声も。
僕が彼女からの告白を断った?
そんなことあるはずがない。
「…本当にそう言ったのか?」
『言った。』
「彼じゃなくて、君だよ」
『…私?』
「"好き"なんて言ってないだろう?」
彼女から好きと言われたことはない。だけど僕は好きな人がいると言ったことがある。他でもない彼女に。
『…私、好きな方がいるの。って言った」
「全然、違うじゃないか」
『一緒よ!直接言わなくても分かるでしょ?』
やはり、どう足掻こうが過去は変わらない、変えられないみたいだ。…まぁ、彼女の言葉に少し期待してしまったのは確かだ。
『うぅ、失恋したぁ』
「してないよ、君のことだ」
『…ぇ』
「君のことを指してるんだ」
あの時、彼女がそう言ったとき。本当に愛おしそうに優しい笑顔でそんなこと言うから。まさか自分のことだなんて、思うわけがない。事実、僕は今初めてアレが自分のことを言っていたんだと知ったんだ。それで、失恋したと思い込んだ僕は「僕にも好きな人がいる」と言ったんだ。今思えば、ただの嫉妬だったんだな。
『…そう、かな?』
「言っただろう?僕の言うことは全て正しい。真実だ」
彼女はこんなに弱気な子だったのか。いつも笑顔で悩みなどないと思っていたのに。だいぶ違っていたらしい。
『誠一は、本当に優しいね』
「何だ、急に…」
『私、誠一のこと好き。大好きだから。』
「…っ!、そう…」
煩いくらいに心臓が高鳴る。身体が火照る。目尻に温かいものが溜まり始めるのを感じる。
ああ、それが、その言葉が聞けただけでもう充分だ。彼女は僕には直接、言わなかった言葉を、僕に言ってくれた。彼女の人生を奪ってしまったこの僕を。好きだと、大好きだと言ってくれる。ほんと充分だ、それだけで。
今更、過去を変えようなんてもう望まない。
< 15 / 23 >

この作品をシェア

pagetop