くるうみ。~あなたと過ごした3日間~
「……龍が……泣いてる……」
「え?」
野島がポツリと零した言葉の意味が解らなくて、振り返ると、野島は誰も見ていなかった。
訝しく思ってその視線を辿ると――
野島の淡い茶色の瞳は、龍ヶ峰に向けられてた。
あたしも何となく龍ヶ峰をよく見たら、残雪の中に不思議な模様を見つけ出した。
雪が溶けて露出した岩肌の部分が、ちょうど蛇みたいに細長い。
お婆ちゃんにそれを告げると、「わかりにくいがあれは龍じゃよ」と教えてくれた。
「言い伝えだと、龍ヶ峰の底には龍が眠ってるといわれとるば。天然水はその龍の涙とな。
じゃが、それがおかしゅうなってきたんじゃな。山潮の人間は“龍が嘆いた”言うちょるよ……潮の流れがおかしゅうなって魚ば穫れんくなってるのも」
「確かに……漁師の叔父からは年々収入が減ってると聴いた事があるな」
明石先輩が言う。
「そうね、わたしも聴いたことがあるわ。世界的に漁業の水揚げ量が減ってるのは。
日本だけじゃなく、世界的に乱獲による水産資源の減少に加えて、海洋汚染や温暖化による海水温の上昇も関係あると指摘されてるわ」
美紀さんもあたしの知らなかったことを教えてくれた。