くるうみ。~あなたと過ごした3日間~
「えっと勇人くんだっけ? それじゃ早く行くべよ」
積極的な由美ちゃんは早速野島の腕に自分のそれを絡めて見上げてる。
やっぱりビジュアル的にもお似合いだな……美男美女であたしと大違い。
こんなおたふくさんみたいにふくれたあたしの顔より断然いいよ。
あたしは受け取った5000円札を美紀さんにそのまま返す。
「それじゃ、あたしはこれで」
「え、ええ……」
美紀さんにぺこりと頭を下げてから、露店で賑わう人ごみの中に逃げ込んだ。
「このポーズでいいべ?」
後ろから聴こえる由美ちゃんの笑い声に耳を塞ぎながら、ただひたすら走りつづけて……。
露店が途切れる林で息が切れて足を止めた。
息苦しくて汗が流れ落ちる中で、耳を澄ませて周りを探っている自分に気付いた。
もちろん追いかけてくる人なんか、いない。
ガサガサと草が擦れる音にドキンと心臓を鳴らし振り向けば、ただ野良猫が通っただけ。
現実を思い知らされるだけなのに……なにバカやってんだろ、あたしは。
こうして逃げれば追いかけてくれるなんて……あるはずないのに。
アイツにとってあたしの存在はどうでもいいに違いないのに。