くるうみ。~あなたと過ごした3日間~
あたしはゆっくりと言葉を選びながら、素直な気持ちを野島に話した。


たぶん、野島は恐れてるんだ。


何を恐れてるのかは解らないけど、緊張だけじゃない感情が手のひらの震えから伝わってきた。


大丈夫だよ……


あたしは野島を理解したいけど、それ以上にこの人を護りたい、と強く思った。


「……勇人」


初めて名前だけを呼ぶために唇に載せて、音を形作る。


たったそれだけ。


ほんの3秒とかからないそれだけの唇の動きに、たまらなく切なくて泣きそうになった。


「……大丈夫か?」


野島があたしの手のひらを握り返してくれた。指先がさっきより温かい……緊張が少し和らいだのは、あたしが呼んだから?


もしそうなら、嬉しい。


「うん、大丈夫……ありがとう」


あたしは目を瞬かせて涙を消してから顔を上げた。


「勇人……あたしね、海ほおずきが欲しいな。金魚すくいもしたいし、リンゴ飴も食べたい」


今はまだ、いい。


「わかった、行くか」


野島……勇人はあたしの手を握りしめてくれたまま、露店のある神社に歩き出した。


手のひらの確かな温もりを感じながら、今はまだこのままで。
あたしはそう呟いた。

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