予言と未来
好き
ライネスは傷口から鮮血が溢れるのも構わずに、立ち上がった。
「治療なんか必要無い。さっき あんたが言った通り、両親が悪魔に殺されてるのなら、俺を恨んでいるだろう?」
「……どう言う、意味だい?」
ルーヴが静かに訊くと、ライネスは一歩 後退った。
「俺は龍族の生き残りだ。戦えもせず、死ねもせず、生き永らえてしまった、役立たずの族の生き残りだ!」
口の端から血を滴らせながら叫ぶライネスの瞳には、暗い闇が在った。何もかもを拒絶し、何もかもを否定し、何もかもを拒む、底無しの闇。
「……そんな事 思っていないよ。龍族は命を懸けて空界を護ろうとした。悪魔の力が それを超えていただけだ!」
「五月蝿いっ! 俺は そんな嘘、聴きたくないっ!!」
叫ぶライネスの姿は、最早 何を言っても聞かないように思えた。
「嘘じゃないさ! 空界の皆も、龍族には感謝を――。」
「じゃあ、俺に向けられてる視線は何なんだよっ!?」
泣いているかのように震えている叫び声。けれど、彼の瞳に涙は無かった。
「……俺だって……一緒に死にたかったんだ……あんな酷い仕打ち、受けたくなかったんだ……皆に、存在を否定されたくなんか、無かったんだ……。」
俯いて唇を噛み締め、小さく そう呟くと、ライネスは脇目も振らずに走り出した。
「待つんだ! その傷じゃ――。」
慌てて追いかけようとしたルーヴの肩を、愛光は掴む。
「…………?」
「私に行かせて下さい。」
愛光は、ルーヴを真っ直ぐに見つめた。
「必ず彼を、連れて来ます。」