予言と未来
裏切りの時
光が1つも無い暗闇の中、ライネスは気が付いた。ウィロアに負わされた脇腹の傷が ずきずきと痛み、小さく呻きながら目を開けてみる。
其処は、知っている場所だった。
村で平和に暮らす内に、記憶の片隅に押し込めてしまった、もう、2度と見ないと思っていた世界。地界の、研究施設――10年前、閉じ込められた場所。
頬に当たる床が冷たくて、ライネスは ゆっくりと上半身を持ち上げた。しかし。
「…………っ。」
脇腹の傷から新しい鮮血が溢れ出て、ライネスは再び床に顔を付けた。
(……起き上が、れない。)
浅く息を しながら、1メートル程 先に在る鉄格子の向こう側に、目を凝らす。何も見えないが、恐らく監視の悪魔が居るんだろう。
(……どうすれば、良い?)
目を瞑り、考えを巡らす。
10年前、悪魔を召喚して、地界に連れて来られてから4年間、ライネスは実験台に され続けた。それに耐えきれなくなったライネスの心は、不意に龍族の力を覚醒させ、それは爆発した。
まだ10歳だった自分は、その力の大きさに怯えながらも、ヴィルを押し退け、研究施設を飛び出して、地界を彷徨った。そして、龍族の生き残りが居ないか探索に来ていた空界の一団に保護され、自分の世界へと帰ったのだ。
再び それを やるのは無理だろう。力の暴走等、起こそうと思って起こせるものではないし、ヴィルも きっと何かしらの対策を用意している筈だ。
(……助けを、待つしか無いのか……?)
助けに来てくれるのだろうか?
悪魔を召喚してしまった自分を。
(……或いは……。)
舌でも噛み切って、自殺するか。
そんな事、臆病な自分は出来るのだろうか。
そんな事を考えている内に、ライネスの意識は途切れた。