予言と未来
生贄
「…………。」
愛光達がヴィル達の元へ走って行くのを見届け、ライネスは小さく息を吐いた。
今 目の前に居るのは、女神――イラのみ。
「……女神様。」
風に攫われて行ってしまうくらい小さな声で、彼女に声を掛ける。彼女はライネスを全く見ずに、ふんと鼻を鳴らした。
「罪深く穢れた存在で、気安く私に話し掛けるな。」
「無礼は重々 承知の上。」
腹の傷から鮮血が流れるのも構わずに、ライネスは姿勢を正し、イラに敬意を示した。
「けれど、俺の願い、聞いては頂けないでしょうか。」
「……聞くだけだ。飲む訳では無いぞ。」
女神は眉間に皺を寄せながらも、漸くライネスに目を向けた。
「はい、構いません。」
ライネスは小さく微笑む。
「申してみよ。」
「……先程の話、俺は謹んで お受け致します。いえ、是非 俺に、その役目を。」
先程の話。それは、女神が結界を張るのにライネスを生贄として使えと、愛光達に話した それだ。
「……何を考えている? もしも愛光達が、生贄を使わずに結界を張る事に成功すれば、其方は自由の身ぞ。」
訳が解らないと言う風に首を横に振る女神に、ライネスは寂しげな笑顔を見せた。