夏風邪とモノグラムな指
「千波」


哲の唇があたしの名前を紡ぐ。


好きな人に名前を呼ばれることは幸せなのだと、哲を好きになって初めて知った。


「キス攻めか、このままやるか、どっちがいい?」

「あのさ、哲」

「言っとくけど、煽ったのは千波だからね」

「だからね、哲」

「大丈夫。千波が意識飛ばしても俺が勝手にやってるから」

「あほか。あたしが風邪引いてることわかってるよね。てか、あんたにも風邪移るよ」

「移すのは千波なんだから、責任取ってよ」


有無を言わせてくれる前に、哲の唇があたしの口を塞いだ。


全く、こいつは勝手過ぎる。


煽ったのだって無意識だったんだから仕方ないでしょうが。


唇が一瞬離れ、哲が眼鏡を外す。


そして、再び哲の体があたしに覆いかぶさってくる。


てか、え、本当にやらないよね?


さすがに病人を抱くことなんてばかなことは……。


「んんっ!」


哲の舌が咥内に入ってきた途端、あたしの思考は全ストップした。


食われる。


そう直感した。






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