夏風邪とモノグラムな指
「キスだけでへばっちゃって」


ベッドの横に座って爽やかとも意地悪そうとも取れる笑顔の哲の頭を叩いた。


「こっちは病人なんですけど」


結局唇のキスだけで終わってくれたけど。


それだけで翻弄されたあたしは、息を荒げたまま恨めしげに目の前の男を睨みつけた。


てか、また熱が上がった気がする。


哲、鬼畜だ。


「治ったらまた可愛がってあげるからさ」


哲があたしの耳元で囁く。


「……いらない」

「あれ、誰だっけ、さっきのキスでもっとってねだった人は」

「ねだってない!」


ああもう、叫んだら頭がぐらぐらしてきた。


腕で目を塞いで唸ったら、その手を掴まれた。


あたしの手に哲の手が重なっている。


「モノグラム……」

「え?」


首を傾げる哲の指に自分の指を絡ませる。


「寝るまで離さないで」


本当は寝ても離して欲しくないけど。


でも、そんなわがままを言ってはいけない。    

「泣きそうだよ」


くっくっと肩を震わせて笑ってるし。


こっちは寂しくてたまらないのを堪えて言ってるってのに。


「ずっと離してやんないから」


爽やかで可愛い笑顔と力が入った指。


あたしの気持ちを見透かしたような口ぶり。


じゃあ、哲。


モノグラムのように、この指をずっと離さないで。


風邪が治っても夢と思わせないで。







END.





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